2023
07.14

高気密高断熱住宅の防蟻施工は不要なのか?

防蟻基礎パッキンだけでは建築基準法に適合していない可能性があります。当社にご連絡いただく会社さまでも結構な割合で適合しておらず、それとは知らずに、検査機関もスルーしてお客様に提供しているというケースがあるようで、現在もその状況が完全に解消されているとは言えません。例えば、防蟻基礎パッキンを使用してホワイトウッドが構造躯体という場合、建築基準法に違反している可能性がありますので注意が必要です。

ここ2~3年くらいで増えてきたお問合せ内容で、高気密・高断熱・高耐震住宅で基礎断熱仕様の住宅商品を持っている会社さまから、防蟻防腐剤に関して検討しているというものがあります。

通常の住宅では主に床下に防蟻剤を散布します。この際散布されるのもは農薬系殺虫剤であり、安価ですが、効果が5年程度と短く、成分が揮発して住宅内に入り込んでくる為、あまり好まれていないという現状があります。

元々、日本の住宅は、床下に風邪を通して木材を湿らせないという工法が主流でした。その後は、断熱材が普及したこともあり、床下に断熱材を入れる床断熱工法を採用する住宅会社増えてきました。それに合わせて建物全体を気密化させて断熱効果を上げる高性能住宅を謳う会社が増え、いまでは大手ハウスメーカーでも気密性能を前面に押し出したテレビCMを放映しているほどです。

しかし、ここでいくつか課題が発生しました。シロアリ対策をどの様に行うのかという事です。当社がヒヤリングした内容だと、割と多い印象だったのが「シロアリ対策は特に実施していない」というものでした。というのも、品確法で規定されたある一定の高耐久樹種(例えばひのき)はシロアリ対策をしなくてもよいと定められており、それを拠り所として防蟻処理は実施しないという事になっている様です。

建築基準法では

建築基準法第49条2項
構造耐力上主要な部分である柱、筋かい及び土台のうち、地面から一メートル以内の部分には、有効な防腐措置を講ずるとともに、必要に応じて、しろありその他の虫による害を防ぐための措置を講じなければならない。

と規定されています。なお、この有効な防腐措置や害を防ぐための措置という事にはそれ以上記載がありません。ここが、あやふやでグレーゾーンなので多くの会社が迷います。現在では、これを「木材保存協会、もしくは、しろあり対策協会」の認定薬剤と読み替える事が通例となっており、自治体や公的機関もこれに準じた判断を下すことになっています。

そしてさらに深堀すると、構造体力上主要な部分というのは下記の通り記載があります。

<建築基準法施行令第1条第3号>
[構造耐力上主要な部分]
基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するものをいう。)床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するものをいう。)で、建築物の自重若しくは積載荷重、積雪、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の振動若しくは衝撃をささえるものをいう。

なお、上記の場合2×4や壁工法は想定されていないので、厳密に言えばそれらの工法の場合構造用合板にも施工が必要という事になりそうです。この辺りは論じると長くなってしまうので割愛します。

会社によっては防蟻基礎パッキンを使用する事で防蟻対策としているというお話もよく聞きます。例えば、土台は薬剤注入木材を使用しており、柱はホワイトウッドを使っているというケースなどがあるでしょう。しかし、実は防蟻基礎パッキンは所定の防蟻処理として認定を取得している建材ではない為、この施工をもってして、建築基準法でいうところの「有効な防腐措置」とはならないという落とし穴があります。しかし、防蟻基礎パッキンでいわゆる「保証」が発行されるため、住宅会社側も問題ないと判断してしまうようです。また、検査員もそれらに対してあまり知識が無い場合が多く、問題ないと判断し検査をパスできてしまう事が多いようです。

防蟻基礎パッキンにおける保証はあくまでも私的企業は発行している保証であり、建築基準法や公的機関との相関はありません。ここは多くの企業が勘違いしている落とし穴だったりします。

ただ、最近ではそれら検査員も知識を増やしてきており、防蟻基礎パッキンでは防蟻処理を施したことにならないと判断するケースが出てきています。SOUFAを採用する事になった会社様曰く「一昔前は、何も言われなかったが、今年に入ってから防蟻処理に関して指摘が入るようになった。今更、農薬系の防蟻剤は使いたくない。」といった理由からSOUFAをご利用いただいています。

構造用合板差別化

少し話を戻します。高気密高断熱住宅の防蟻処理には今まで通り、農薬系の防蟻剤を利用する事も、不可能ではありません。ただし、気密化された住宅の場合、それら揮発成分が住宅内部を循環する事になります。その為、お客様にはあまり説明できないでしょう。また、農薬系の防蟻剤の有効期間の短さも懸念事項であり、約5年かけて揮発し住宅内部を循環した防蟻剤の有効成分は少なからず居住者やペットにも吸収される事になります。

これらを考えると、高気密高断熱住宅の場合、法律上必要な防蟻処理として「ひのき等の高耐久樹種を使用して、防蟻処理をしない」もしくは、「ホウ酸系の水だけが蒸発する無機防蟻剤を使用する」といった選択肢に絞られる事になります。何故なら、日本で流通しているホウ酸系以外の防蟻剤は、ほとんどの製品で、残留農薬の課題から、揮発して5年で効果が切れるように設計されているからです。

実際の建築現場では、コスト面で考えると防蟻処理を行わないという会社が多そうですが、実際のところ高耐久樹種と言われる木材は本当にシロアリの被害を受けないのかと聞かれると、これは嘘だと言わざるを得ません。当社で実施したテストではひのき材料が食害をうけ、かつシロアリが試験期間内には死亡せず、今後も食害を続ける様子が観察されました。

英語の記事でごめんなさい・・・

上記は、あるハウスビルダーからの依頼で、国産ヒノキのシロアリ耐久テストを実施したものです。結論としては、住宅に害があるレベルで食害を受けました。ヒノキだから大丈夫という理論は成立しない事が証明されたと言えます。もともと、木材の防蟻防腐処理を規定した建築基準法はかなり古い法律であり、その当時はヒノキ信仰が強く正しいとされていました。

しかし、実際には食害される事がわかっており、住宅会社の現場担当者や大工の間では実は常識だったりします。でも、わざわざそんな話をお客様にする事はありません。

ちなみに、実際には食害を受けますが下記材料は未処理で土台に使用する事が可能です。正直なところ、法律が時代に追い付いていないと言えるでしょう。

土台に使用できる「特に耐久性の高い樹種」
ひのき、ひば、べいひ、べいひば、くり けやき、べいすぎ、台湾ひのき 、こうやまき、さわら、ねずこ、いちい、かや、ウェスタンレッドシーダー、サイプレスパイン(豪州ひのき)、インセンスシーダーまたはセンペルセコイヤ

また、土台に防蟻措置が施されていれば、ヒノキだけに限らず杉も未処理で法律はクリアできます。ただし・・・杉はシロアリに、とてもよく食害される木材です。いったい何が高耐久なのだろうかと疑問です。

Japanese cypress is eaten by termites
一番上がヒノキ、一番下が杉。わずか2週間でこの状態です。

長期優良住宅・劣化対策等級について

劣化対策等級3を指標として使用してる会社は多いかと思います。これがまたややこしい話になります。防蟻防腐措置にフォーカスしてお話しすると、土台はK3相当が必須で、柱等は「耐久性の高い樹種」という事で杉やヒノキを使用する事でクリアできます。その場合、防蟻剤の塗布等は不要です。

建築基準法をクリアするだけでよいのか、もしくは劣化対策等級を取得するのかによって、防蟻措置や樹種は異なってきます。しかし、このような内容は住宅会社もわかっていないことが多く、設計士や検査機関のインスペクターも認識していないケースが多々あります。ましてや、エンドユーザーは知る由もないでしょう。

防蟻剤メーカーの立場としては、「樹種は何にせよ木材は食害を受ける可能性の方が高いので、予算が許すのであれば、主要構造部の木部すべてに防蟻処理を施してほしい」と考えています。主要構造部全体への防蟻処理が可能なのは新築時のみであり、且つ、全体に処理できる人体毒性のない薬剤はホウ酸系防蟻防腐剤のみです。

防蟻処理の詳細や実害は、ハウスメーカー、ビルダー、工務店、といった方々は殆どの場合で注目していない箇所です。逆に言えば、それらの話を競合他社がお客様が決断するギリギリの段階で、出してきたとしたら・・・おそらく、それらの対策を準備でいない会社は勝つ事はできないでしょう。

常に差別化を探している住宅会社の皆様は、そろそろホウ酸系防蟻防腐剤に目を向けていただければ思っています。

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