2019
10.31

世界遺産「首里城」火災の予防・防止策は考えられるのか?

2019年10月31日に世界遺産である首里城で火災が発生し、中心的な建物の「正殿」をはじめ、北殿、南殿など6棟が全焼し、4800㎡が消失してしまいました。
首里城の火災原因はまだ不明との事ですが、予防策や対策について考えてみたいと思います。
また、現在歴史的建造物保護に対しての考え方についても書ければと思っています。

首里城は木造で出来ており、木材の不燃化を研究している当社としては触れない訳にはゆかない痛ましい火災だといえます。
(NHK)首里城で火災「正殿」などが全焼 那覇
室内にはスプリンクラーが設置されておらず、発生後しばらくは熱が強く消防隊が近づけなかったそうです。
その間にも木造である首里城の火災は広がっていったそうです。

木材の不燃化を研究しているSOUFAとしては、今後このような大切な文化遺産が消失しない様に、何が出来るのかを考えています。
もしもはありませんが、もしも木材の不燃化・難燃化・防炎化処理を行っていれば少しは変わったのではないかと考えてしまいます。
SOUFAは木材に塗る事で木材を難燃化する事が可能です。

文化財の不燃化、難燃化、防炎化、防火等は定期的に議論になります。
少し前にパリのノートルダム大聖堂で起きた火災がありました。昨年も実はアジア圏では、沢山の歴史的建造物が火災により焼失しています。
当社には日本及びアジア諸国から歴史的建造物の難燃化について定期的に相談が寄せられます。
しかし、なかなか進まないという実情があり、そういった内容を少し書いてみようともいます。

SOUFAは元々新潟中越沖地震の際に発足したNPO団体を始まりとしています。先の阪神大震災を受け、火災の被害を減らすことで人命が助かるのではないか?という事を命題に「減災」を掲げ、日本の住宅の基本部材である「木材」を不燃化する事で被害を抑えられるのではないだろうかと考えながら活動してきました。


その様な経緯から、過去に複数の寺社仏閣等に製品を施工、納品してきたのですが、実はこれらの寺社仏閣には「施工が難しい」理由と仕組みがいくつか存在する事が分かりました。
文化庁は様々な啓蒙活動等を行い文化財の保護をPRしています。実際にいくらかの予算も付いているようです。
文化財防火デー

チラシ等を作成し、地域の寺社仏閣を回り放火、火災対策の提案を行ったこともあります。しかし、現実問題としては予算が工面できない等で実施まで至るケースは多くありません。
そこで行政側からのアプローチで、当社でも何かお手伝いが出来ないかと思い、過去に文化庁に連絡を入れたことがあります。
しかし、回答としてはなかなか難しいものでした。
要約すると下記の様な内容です。

■文化財の防火対策
・基本的に歴史的建造物は手を加えない事を前提としています。それは歴史的価値を守る為です。
・スプリンクラー設備等で「燃えてから消す」という事が前提です。
・監視カメラの増設、消火設備の強化で対応します。
・見回り強化等で地元の力も借りながら守って行きます。

▲そもそも燃えない様にするという考え方を持っていません。

という回答でした。歴史的建造物はそれ自体の価値が非常に高く、再生が出来ない為、基本的には現代の技術で手を入れない事を前提としています。
しかし、現実には床下をシロアリに侵されてしまう例などもあり、大々的には発表されてはいないものの当社でも、シロアリ対策や防火対策に関わる事が定期的にあります。

残念ながら現在の施策は「燃えてから何とかする」という後手の対策がメインとなっています。

毎年冬場になると歴史的建造物放火がニュースになります。今回の首里城に関してはまだ原因が不明ですが、これは特別な事ではなく、毎年毎年貴重な歴史的建造物が火災で焼失しているという事実を我々は知らなければなりません。

歴史的建造物の保護に関しては、そもそも「燃えにくくする」という概念がありません。
地域の担当者の方は「燃えなくする」という事に強い関心を持っていただき、ご連絡いただくこともあるのですが、それ以上話が進むことは残念ながらあまりありません。

下記の様な問題も考えられます。
例えば普段は宮司が居ない様な小さな寺社仏閣は夜中に放火されてしまった場合、朝まで気が付くことが出来ず全焼してしまうでしょう。
また、そもそも消防車がたどり着けないところに建っている祠は数えきれないほど存在します。これらは無策のままそこに建っています。

どうしても上記の方針がある為に、毎度歴史的建造物防火対策は話が頓挫してしまいます。
おそらく、今回の首里城の火災も最終的には「スプリンクラー増設」「監視カメラ増設」といった、「燃えてから消す」という大方針から抜け出すことは難しいのではないでしょうか?
当社程度の影響力では、分かっていても対策が出来ないという歯がゆさがあります。

当社材料に限らず、木材に難燃性を付与する塗料や難燃剤は既に複数存在しています。
しかし、現在はまだ議論のテーブルにすら乗る事が無いという状況です。
歴史的建造物であれば「文化庁」、火災であれば「消防」、建築であれば「国交省」と言った事で行政機関も分断している為、我々の様な一企業ではとても流れを変える事は出来ません。
また、どうしても前例主義が存在する為、新しい材料の採用はかなり難しいといえます。
試験や認定、安全性も担保する必要があり、時間と数百万円~数千万円の資金が必要になります。

少し余談になるのですが、SOUFAは木材の不燃化からスタートした会社です。そんな中、最近では木材以外の製品への応用が進んでいます。
例えば、紙や建材、自動車や鉄道と言った分野です。
これらの企業の研究者の方は純粋に「効果」を求めて当社へご連絡いただきます。
民間企業は効果が最優先であり、むしろ前例がない方が市場を独占できる可能性がある為に好まれます。

SOUFAを使う事で難燃性能UPし商品化した製品も複数存在します。

また話はそれますが、以前にこんな記事を書きました。神宮外苑の芸術祭で子供が火災で亡くなった痛ましい事故の件です。
神宮外苑火事の木製ジャングルジム火災は予防できたと思う。その方法

これを受けてイベントに関してはかなり防炎基準が厳しくなったと聞いています。
ただ、厳しくなることで表現の制限が出ていることも事実で、当社にはイベントで利用される段ボールや紙、布等の会社から定期的にご連絡を頂きます。
各企業は必死に「燃えない」という性能を付与した製品を開発しています。

しかしながら、木造建築に関してはほぼ手付かずです。
これも余談になってしまいますが、東京都が抱えている木造住宅密集地域に関しても明確な回答が出ていません。
東京都には木密地域と言われる、古い木造建築が密集している地域があります。ここでは一旦火災が起こると一気に広がる恐れがあり、石原都知事時代から対策が考えられています。
しかし、現実的な解決策は明示されていないのが現状です。

非常に簡単にまとめると東京都の対策は下記です。
木密地域不燃化10年プロジェクト
■木造住宅を壊す⇒コンクリートに建て替える

しかし、これは現実にはあまり進んでいません。木密地域には高齢世帯も多く住んでいます。住宅の建て替え費用の捻出は現実的には難しいといえます。
これに関しても、都議会議員の方を通じてお手伝い都にアプローチしているものの、壁が厚く進展が難しい状態です。

正直な所、今回の首里城火災を教訓に歴史的建造物の保護に関して何かが進むとは考えにくいのが現状です。とにかく関係者が多すぎるのです。

難燃剤メーカーとして感じているのは「日本」という国はアジア圏から見るとまだまだ「憧れの先進国」だという事です。
アジア諸国は長い植民地時代や、軍国主義等から脱却して精々数十年と間もない国が多く、不燃化等の研究はあまり進んでいないそうです。その為、日本に技術を探しにやってくるアジア諸国は本当に多いといえます。
先日も、中国、韓国の企業から「歴史的建造物放火対策」のご相談を受けました。

SOUFAはまだまだ力の小さな会社ですが、もっと力を付けて日本や世界各国の歴史的木造建造物の保護、そして本分である減災に関わりたいと考えています。
我々の挑戦はまだ始まったばかりです!

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