12.15

ホウ酸系防蟻・防腐製剤の適用範囲と安全性に関する論点
日本ではシロアリに対する知見を有する団体として、日本しろあり対策協会と日本木材保存協会という公益社団法人が存在しています。両組織の運営に関して重複している部分等もありますが、見解が異なる事もあります。その中で顕著なのが「ホウ酸」に対する見解です。公益社団法人日本しろあり対策協会(以下、白対協)は、ホウ酸系防蟻・防腐製剤(以下、ホウ酸製剤)について、その性能評価や認定の仕組みに基づき、特定の留意事項と見解を表明しています。
白対協の主な論点は、ホウ酸製剤が持つ水溶性、試験規格の限定性、そして白対協の定める「防蟻理念」への適否に集中しています。下記はそれらをまとめたものです。
1. ホウ酸製剤の性能評価と適用範囲に関する留意点
白対協は、ホウ酸製剤が性能基準を満たしていることを認めつつも、その試験方法と適用範囲には厳格な限定があることを指摘しています。
- 耐候操作の限定性: ホウ酸製剤の性能は、JIS K 1571:2010 附属書A(規定)に基づき評価されています。この規定では、水に溶けやすいホウ酸製剤の特性上、薬剤を水に浸漬する溶脱操作が課せられていません。防蟻剤は水に溶けないものが良いだろうと考えられてきました。その為、それらの性能試験において耐侯操作とよばれる「水にぬれた後にも性能を維持しているのか?」という試験が課されています。上記の付属書Aというものは、その水にぬれた試験を実施していません。ホウ酸は水に流れやすい性質がある事が事前に分かっているため、それらを緩和した試験を基準としています。
- このため、ホウ酸製剤が溶脱操作を経た場合の防腐・防蟻性能は明らかになっていません。防蟻剤用の耐侯操作を実施した場合、ホウ酸はほぼ効果を失うと考えられます。話が脱線しますが、とある企業が「水に流れないホウ酸系防蟻剤を開発した」と発表していますが、試験データを確認した所、ホウ酸を混ぜ込んだ塗料である可能性が高いと判断しています。防蟻薬剤というよりもペンキと考えられるため、本来の試験趣旨とやや異なると思われます。
- 適用範囲の限定明示: 附属書Aによる試験結果は、「屋根、外壁板などによって風雨から遮断され、かつ、地面に直接接触しない建築用木材」のように、水分供給の可能性が少ないが、突発的に高湿度になる可能性のある木材に使用する薬剤の性能を評価するためのものです 。このため、試験結果には「適用範囲が限定されていることを使用者側へ明示する」ことが規定されています 。これは、直接水にさらされない住宅の構造材等が想定されています。柱や梁などは壁の内部に収まる為、水に接触する事は無いと考えられます。
- 乾材シロアリへの性能評価不足: JIS K 1571が対象とするシロアリ種はイエシロアリであり、アメリカカンザイシロアリ等の乾材シロアリに対する防蟻性能は評価対象となっていません。これはホウ酸に限らず他の薬剤も同様です。ただし、当社の試験ではアメリカカンザイシロアリに対しても同様の効果を発揮する事が確認されています。
2. 白対協の「防蟻理念」とホウ酸製剤の不認定
白対協は、独自の「防除施工標準仕様書」における理念に基づき、ホウ酸製剤を有効な防蟻薬剤として認定していません 。白対協は主に工事業者側の意見を強く反映していると言われています。その為、工事を専門とする会社等ではホウ酸の使用を否定している会社も多いようです。
建物全体を担保できない特性
白対協の理念では、防蟻処理は土壌処理と基礎天端から1m以内の木材処理によって、建物全体に防蟻効果を期待するものとされています。この効果には、シロアリの摂食による殺蟻だけでなく、接触による殺蟻や、木材などの表面の蟻道の構築を阻害する効果が求められます。
- 接触毒性の不足: ホウ酸製剤は、シロアリの摂食(食毒)では有効ですが、薬剤との接触による毒性が期待できないことから、建物全体を防蟻できる保証(担保)ができないとしています。これは確かにその通りでホウ酸は摂食させれば効果が出ません。ただし、必ずしも接触毒性が優位かどうかには議論があります。
- 土壌処理の不使用: ホウ酸製剤は、土壌処理用としては認定されていません 。これは、ホウ酸製剤が水に溶けやすい(冷水でことから 、地下水や河川など公共用水域へ流出し、人の健康や環境へ悪影響が生じる危険性が高いと懸念されるためです 。当社は水に流れやすい為土壌処理に適用されない事と、人体への健康被害が直ちに結びつくものではないと考えています。ホウ酸は土壌処理には適用されないので、地下水等に流出する事はありません。やや、議論が飛躍していると思われます。
3. ホウ酸の安全性に関する公的な規制
ホウ酸製剤は天然由来の無機物であるため、安全性が高いと言われることがありますが、公的な規制においては、人の健康に影響を及ぼす可能性のある化学物質として扱われています。
- 環境規制: ホウ酸の主成分であるホウ素およびその化合物は、環境基本法や水質汚濁防止法により、人の健康の保護に関する環境基準が定められ、公共用水域への排出および地下への浸透が規制されています。
- 化学物質管理: ホウ素化合物は、化学物質管理促進法(PRTR法)の第一種指定化学物質(人や生態系への有害性があり、環境中に広く存在する物質)に指定されています。しかしながら、現在認定されている農薬も同様の規制を受けているものや、それ以外の危険性の指摘を受けている薬剤があります。これらは同列に公平に比較されるべきだと考えています。
- 中毒リスク: ホウ酸類の急性摂取による重篤な症状や死亡はまれですが、嘔吐、下痢、皮膚症状、重症例では急性腎不全などを引き起こす危険性があるとして、注意深い経過観察が必要とされています 。SOUFAは独自に安全性試験を実施しており、急性毒性がほぼないことが確認されています。ホウ酸類摂取による重篤な症状よりも、農薬系防蟻剤の重症例の方が多いと考えられます。
4. 住宅性能表示制度における取扱い
一方で、品確法に基づく住宅性能表示制度では、ホウ酸製剤が有効な薬剤として取り扱われています。
- 認定薬剤の想定: 劣化対策等級の評価において、防腐・防蟻に有効な薬剤として、白対協と(公社)日本木材保存協会の認定薬剤が想定されています。
- 日本木材保存協会の認定: 現在、(公社)日本木材保存協会はホウ酸製剤の認定を行っています。
- 評価上の取扱い: (一社)住宅性能評価・表示協会は、日本木材保存協会の認定したホウ酸製剤(JIS K 1571 附属書A適用範囲)について、認定薬剤名、適用範囲の明示、施工マニュアルの添付、および施工状況の確認を条件として、設計評価および建設評価における評価上の取扱いを定めています。
白対協はホウ酸に否定的な見解を持っていると言われます。一方日本木材保存協会は友好的な見解を有していると言われています。これらはどちらが正しい、強い、効果が高いという事ではなく、適材適所で最適な薬剤や工法を使用する事が望ましいと当社は考えています。
ホウ酸は雨のかかる箇所では使用できません。また、既にシロアリが発生している箇所に使用した場合の効果も限定的です。一方、無機物を基材としているため、住宅構造材等への初期の施工には有効な手段です。農薬系防蟻剤の優位な点、不利な点と組み合わせながら採用する事が良いのではないでしょうか。












